サケに似たオレンジ色の身が特徴的なニジマスは、養殖生産が盛んな魚のひとつです。
今回は基本的な生態や味、栄養の特徴、そして日本での生息域と養殖が盛んな地域、ブランド化に成功した養殖ニジマスのことまで、まとめて紹介していきます。
ニジマス(レインボートラウト)は外来魚!その生態は?
漢字では「虹鱒」、英語では「rainbow trout」と表記されるニジマスは、もともとはアラスカ東部やメキシコ北西部に生息する魚でした。日本二とっては外来魚にあたり、日本にやってきたのは明治初期。食用にするために輸入され、芦ノ湖へ放流されたと伝わっています。
ニジマスの基本情報
ニジマスの生態や身体的特徴に関する基本的な情報は、以下の通りです。
- 生息域は主に河川の渓流域や、霊水の湖や沼
- 日本在来のヤマメなどに比べると、比較的ゆったりした水流を好む
- 海で成長するものもいるが、レインボートラウトは一生を淡水で過ごす
- 産卵できるようになるまで2~3年の期間が必要で、平均的な体長40㎝前後
- 湖に棲むものなど、大きなものでは体長が80㎝~1mになることも
- 幼魚の間は体に楕円状の模様「パーマーク」があるが、成魚になると消える
- 成魚のニジマスの体には側面には桃色の筋、背中には黒い斑点が浮かび上がる
- 産卵期は11~3月とされるが、自然界では4~6月に産卵するケースが多い
- 性格は獰猛で食欲旺盛な肉食魚で、昆虫や小魚、ニジマスの卵などを食べる
手ごろなサイズ感のため釣の獲物としても人気で、ニジマス釣りの愛好家は世界中にいます。しかし、いろいろな環境に適応でき生息域が幅広いこと、そして植生が荒いことから、ニジマスは国内外から危険な外来魚と認識されても認識されている実情があるのです。
- ニジマスが指定されている枠組み
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- 世界の侵略的外来種ワースト100
- 日本の侵略的外来種ワースト100
このため、日本でも滋賀県や佐賀県などの一部地域では条例によりニジマスの移植が禁止されていて、捕獲可能な大きさや期間の指定もされているのです。
ニジマスはどんな味?栄養たっぷりで健康的な体づくりにおすすめな理由
基本的な生態がわかったところで、ここからは食材としてのニジマスに注目しましょう。
サケに似たきれいなオレンジ色をしたニジマスの身の味は、淡水魚のなかでも非常においしいです。見た目通り、サケに近い味わいでムニエルやフライなどの他、日本では寿司ネタや刺身として生で食べることもあります。
ニジマスに含まれる栄養と期待できる健康効果
ニジマスは、おいしいだけでなく、体にうれしい栄養素がたっぷり含まれているのも大きな魅力です。ニジマスに含まれている代表的な栄養素と、食べることで得られる健康効果については以下にまとめました。
タンパク質
- イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジンと9種類の必須アミノ酸を含む
- これらはすべて人間の体内で生成できない栄養素であり、食事から積極的に摂取することで疲れにくく、疲れから回復しやすい体づくりに役立つ
脂質
ニジマスは、サバなどの青魚に多く含まれるDHA、EPAを豊富に含んでいます。どちらにも血液の流れを促進し、生活習慣病を改善する効果が期待できる資質であり、以下の効果が期待できます。
- DHA
- ドコサヘキサエン酸。血栓の生成を抑え、血中コレステロール値、血圧、血糖値を低下させる作用がある
- EPA
- エイコサペンタエン酸。脳細胞や神経細胞の活性化、生成に役立ち、集中力や認知能力、網膜の反射機能を向上させる
アスタキサンチン
- 天然色素の一種
- ニジマスの身が赤いのはアスタキサンチンの色素による影響
- 体内の活性酸素抑制や動脈硬化の予防、アンチエイジング、がん予防などの作用が期待できる
ビタミン類
ニジマスには、それぞれ異なる作用を持つ以下のビタミンを含まれています。
- ビタミンA
- 皮膚や粘膜を正常に保ち、免疫力や視力を維持および向上させる
- ビタミンB2
- ホルモンの働きを正常化させ、皮膚や粘膜に炎症が起こるのを防ぐ
- ビタミンB12
- 正常な赤血球の生成に必要な栄養素で、悪性貧血の予防に役立つ
- ビタミンD
- カルシウムの吸収を促進する作用があり、骨や歯を強くしてくれる
- ビタミンE
- 抗酸化作用の高い栄養素で、老化による冷えや疾病を防いでくれる
ミネラル類
ビタミンと同様、人体に欠かせないミネラル類は以下種類が含まれています。
- カルシウム
- 強い骨と歯、みずみずしい肌の維持に欠かせない栄養素
- リン
- 体内で骨や歯の主成分となったり、血中の酸やアルカリを中和する役割を果たす
- 鉄
- 赤血球の主成分となる栄養素のひとつで、積極的に摂ると貧血の予防に効果的
- 亜鉛
- DNAやタンパク質の合成に関与し、不足すると免疫機能や味覚が低下する
ニジマスの養殖が進んでいる!外来種だけど大丈夫?
外来魚として恐れられるニジマスは、積極的に養殖が進められてきた魚でもあります。
養殖向きとされ、世界中で養殖されているニジマスは、以下に挙げる養殖魚の適性すべてを備えているのです。
養殖魚としてのニジマスの特徴
- 幅広い水質、水温に適応し生きていける
- 他の魚に比べて病気に強く、養殖生産するうえでのリスクが低い
- 比較的高い水温でも生きられるため、養魚場を作れる範囲が広い
- とてもおいしく、食材としての人気が高いため、ある程度の利益が見込める
- 淡水の他、海水での養殖も可能
外来魚としてのニジマスが抱える問題
ニジマスは養殖魚に向いている魚である一方、日本の自然環境に以下のような影響を与えるとして懸念される存在です。
- 在来生物のエサや在来生物そのものを食べ、数を減らしてしまう
- 近縁の在来生物を交配して、雑種を生み出し純粋な在来生物を減らす
- どんどん繁殖して生息域を拡大し、在来生物の生育環境を奪う
- 獰猛性や毒など、在来生物にはない特徴で人間を傷つける恐れがある
外来種による被害、日本古来の自然環境への影響を防止するため、環境省および農林水産省では「我が国の生態系に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」を作成しています。
産業管理外来種としてのニジマス
いくつかのカテゴリのうち、ニジマスが分類されているのは「産業管理外来種」です。産業管理外来種とは、産業、または公益性において重要ですが、人の手による適切な管理が必要な外来種のことです。
ニジマスは漁業という産業や食糧確保の面から見ると非常に有益な魚であるものの、自然界に野放しにすると害を及ぼす可能性のある外来種、ということになります。
このため農林水産省は、ニジマスの養殖業者に対し以下の対策を求めています。
- ニジマスの養殖業者に求められる対策
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- 自己の施設から産業管理外来種が逃げ出さないよう、しっかり管理すること
- 生体のまま販売する場合は、購入者に対しニジマスの生育環境に逃走防止策が講じられていること、私的放流に利用されるものではないことを確認する
ニジマスは有害な外来魚指定を受ける魚であるものの、養殖が禁止されているわけではありません。適切な管理のもと養殖生産され、市場に流通するニジマスは立派な国内水産品となります。
自然界では外来魚として嫌われるニジマスも、養殖生産されることで私たち消費者の食卓を豊かに彩る食品となってくれるのです。
日本国内でニジマスはどこにいる?
野生のニジマスは、日本国内ではその多くが北海道に分布しています。北海道以外では東日本、中部地方の以下県への生息が確認されていて、その多くが比較的流れの緩やかな河川を好んで暮らしています。
北海道以外のニジマスの生息地
- 東日本
- 群馬県
- 中部地方
- 新潟県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県
静岡県のブランドニジマス紅富士や山梨県・長野県の交配ニジマスがおいしい!
先述したニジマスの生息が確認されている一部地域ではニジマス、またはニジマスと他の魚を掛け合わせた交配ニジマスの養殖が盛んです。そこで以下からは静岡県、山梨県、長野県からブランド化されているおいしい養殖ニジマス、養殖交配ニジマスを1つずつ紹介していきます。
静岡県|紅富士(あかふじ)
- ニジマス収穫量日本一を誇る静岡県で、地域の漁協で取り決めた「養殖管理指針」及び「養殖管理マニュアル」に沿って富士山の湧き水を使い育てられたブランドニジマス
- 体の側面を走る紅色の帯、サーモンカラーチャート25以上の鮮やかな色の身が特徴で、適度な脂乗りと甘味、しっかりとした歯ごたえの身を生食でも楽しめる
山梨県|富士の介
- 淡水では育たないものの、大型で稀少なキングサーモン「マスノスケ」と、養殖しやすくおいしいニジマスを交配し作り出されたユニークなブラントニジマス
- 2019年より本格的な養殖、販売が始まったばかりだが、養殖に適した安定した肉質が特徴
- 捌いたハラミを特製のタレに漬け込み、真空パックにした冷凍食品を通販で購入できる
長野県|信州サーモン
- 育てやすくおいしいニジマスと、ウイルス性疾患に強いブラウントラウトを交配させ作り出したブランドニジマス
- 安曇野の清らかな冷水で、およそ2年かけて育てられる
- 身は鮮やかなオレンジ色できめ細かく、噛むほどにうま味が広がるのが特徴
- 非常に上質でおいしいニジマスとして、長野県内各地の宿や飲食店で注目を集めている
おわりに:日本国内での養殖、ブランド化されているニジマスを食べてみよう!
北アメリカ原産で在来生物を脅かす外来魚でありながら、とてもおいしく、生息域が広いことから食品として世界中から愛されているニジマス。日本では「産業管理外来種」であり、適切な管理のもと各地で積極的な養殖生産が行われてきました。特に中部地方の静岡県、山梨県、長野県は養殖ニジマスの生産が盛んで、ブランド化も行われています。きれいな水で育った国内産のブランド養殖ニジマスを、ぜひ実際に食べてみてください。
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