養殖のメリットとデメリットとは?養殖できる魚・できない魚を紹介

養殖生簀のイメージ画像グルメでケア
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天然ものより安価なことも多く、身近な養殖魚。私たちの食を支えてくれる養殖ものの魚に対して、皆さんはどんなイメージを持っているでしょうか。
今回は、天然漁獲される魚と養殖魚の違いや種類による向き不向き、漁業者や地球環境へのメリット・デメリットまで、養殖漁業についてまとめて解説していきます。

漁業の養殖とは?天然とどんな違いがあるの?

海上、または陸上に作った生け簀の中に稚魚を入れて、水温や水質、エサの量や質を管理しながら人の手で成魚になるまで育て、出荷する漁業の手法を「養殖漁業」と言います。

日本で初めて養殖漁業が行われたのは1927年、香川県に暮らしていた野網和三郎が入江に入り込み、そこでエサを食べ大きくなる魚を見て開始したと伝わっています。和三郎はまずハマチで養殖に取り組みましたが、当初はうまくいきませんでした。しかし、その後も試行錯誤を繰り返した結果、1960年頃には魚を養殖するための技法がある程度確率され、大量生産が始まっています。

人間の管理する環境とエサで育ち、収穫・出荷される養殖魚と、自然の海や川で暮らし、漁で捕らえられて出荷される天然魚です。
この育ち方の違いは、両者の見た目や味、肉質に以下のような差を生み出しています。

養殖魚と天然魚の違い

養殖魚の特徴
  • どの時期でも味や肉質が均一で、旬のおいしさをいつでも味わえる
  • 生育環境や栄養状態による個体差が少なく、見た目や味、肉質が安定している
  • 与えるエサにより栄養状態をコントロールされているため、栄養価も調整可能
天然魚の特徴
  • 旬には脂乗りが良くおいしくなり、しっかり泳いでいるので身が引き締まっている
  • 時期や生息する海域、生育環境による個体差が大きく、肉質や味にバラつきが出やすい
  • 養殖魚に比べ、人間の手で肉質や鮮度をコントロールすることが難しい

栽培漁業とは

養殖漁業と混同されやすい漁業の手法のひとつに、「栽培漁業」が挙げられます。栽培漁業とは、漁獲した成魚から採取した卵を人間の管理のもとで孵化させ、ある程度大きくなるまで育ててから一度放流し、成長したら漁獲するという手法です。

養殖漁業が稚魚から成魚になるまで一貫して人の手で管理・育成するのに対し、卵から稚魚になるまで育てた後、自然界への放流を経て漁獲するのが栽培漁業の特徴です。
魚の成長過程で一時期、人の手を離れるという点で養殖漁業と栽培漁業は大きく異なります。

養殖は環境にやさしく品質も安定する?養殖業のメリットとデメリット

天然ものを漁獲するでも、栽培漁業でもなく、養殖漁業に期待できる各方面へのメリットとしては以下が挙げられるでしょう。

養殖漁業のメリット

  • 魚の生育具合に合わせ、漁業者が出荷数をある程度予想し、コントロールできる
  • 水温や水質のコントロールにより、赤潮など季節的に起こる自然現象を回避できる
  • 地元の漁業関係者の収入を安定させ、地域に雇用を生み出す事業となり得る
  • 特に優れた肉質のもの、病気への耐性が強い魚を交配させ、生産しやすい種を作れる
  • 脂の乗りや肉の質感、体の大きさが揃った魚を、安定した価格で1年中提供できる
  • どこで、何を食べてどのように育ったかの記録がのこるので、消費者の安心感も大きい
  • 出荷にタイミングを合わせ、必要な分だけ活〆にできるため、鮮度が良い
  • 活きたまま輸送することも可能で、鮮度が高くおいしい魚を全国に届けられる
  • 限りある海洋資源を守りながら、世界で高まる水産物への需要を満たすことが可能
  • 人口増加によって懸念されるタンパク質不足を補うための、有力な手段となり得る

養殖漁業のデメリット

一方で、養殖漁業によるデメリットとしては、以下が挙げられます。

  • 養殖魚は人からエサをもらわないと生きられないため、莫大なエサ代がかかる
  • 生け簀に使われる網や水をくみ上げる装置など、生育環境を整えるための管理費もかかる
  • 限られたスペースで大量の魚を育てているため、自然界に比べ病気が万円しやすい
  • 生け簀の中でしか泳げないため、天然ものに比べ魚が運動不足になりやすい
  • 病気予防や成長促進のために、抗生剤やホルモン剤が投与されることもある
  • 養殖魚に蓄積された薬剤の影響で、人間に薬への耐性が生まれてしまう可能性がある

養殖魚はアニサキスなど寄生虫による食中毒がいないの?

サケやサバなど、自然界でオキアミなどをエサとする魚介類のいくつかには「アニサキス」という寄生虫が寄生している可能性があります。
アニサキスは最終的にはクジラ、イルカなど海洋哺乳類の体内で成虫になる寄生虫です。幼虫時代にはオキアミなどのプランクトンに寄生し、そしてこれらを捕食する魚介類に寄生し、最終宿主となる海洋哺乳類の体内へ入ることをめざし暮らしています。

一定期間冷凍するか、しっかり加熱することで死滅するアニサキスですが、人間が誤って生食すると激しい腹痛や吐き気、嘔吐、蕁麻疹などを伴う食中毒症の原因となります。このため、オキアミなどの生物ではなく人工飼料や冷凍、粉砕の工程を経たエサを与えられる養殖の魚では、寄生虫による食週毒発症リスクは非常に低くなるといわれています。

ただし、近年では輸送・保管技術の進歩により、アニサキスを除去したり、死滅させたうえで生食することも可能になってきました。養殖魚であれ、天然魚であれ、アニサキスが寄生しやすい種類の魚介であれば、生食で食中毒を発症する可能性はゼロではありません。
そのことをよく理解したうえで、少しでも食中毒発症リスクの低い魚と調理法を選び、食べるようにしましょう。

養殖の方法や魚に与えるエサの安全性

先述した養殖漁業の手法は、養殖する場所によりさらに「海面養殖」と「陸上養殖」の2つに分けられます。

海面養殖

海の中に生け簀などを設置し、その中で魚を管理・育成していく養殖の手法です。養殖方法のなかでも一般的なもので、さまざまな地域や種類に対して用いられています。

天然の海を利用して行うため初期費用が少なく、割安で生産を開始できるのが大きな利点ですが、台風や赤潮など自然現象による影響を受けやすいこと、漁業権やスペースの関係で新規参入が難しいという面もあります。

陸上養殖

海から隔離された陸の上に水槽を作り、その中で魚を管理・育成していく養殖の手法です。水槽で使う水の採取場所、取扱いによって「かけ流し式」と「循環式」があり、各産地の環境や事業所の状況により使い分けられます。

かけ流し式陸上養殖
川や海から汲み上げた水を陸上の水槽に入れて魚を育て、使用した水は川や海へ排出する
循環式陸上養殖
川や海から汲み上げた水を陸上の水槽に入れて魚を育てるが、使った水は排出せず、繰り返しろ過して再利用していく。海に起こる自然現象の影響を受けず育成環境を完全にコントロールできるため、安定した生産が可能になるのが陸上養殖の大きな利点
水槽や水の循環装置を設置するための初期費用に加え、エサ代に加え設備を維持するためのランニングコストが高いのが難点

また近年では、新たな養殖の手法として一部の地域で「完全養殖」も行われています。

完全養殖のサイクル
  1. 自然界で成魚を捕まえ、数年かけて育て「親魚」とする
  2. 親魚から受精卵を採取し人工孵化
  3. 生まれた魚を稚魚になるまで育て、養殖用の生け簀へ
  4. 十分に大きくなったら一部を出荷し、一部を人工成魚として育てる
  5. 人工成魚から新たな「親魚」を作り、また受精卵を採取・人工孵化せていく

自然界から稚魚、成魚を毎年確保しなければならない従来の養殖方法に対し、完全養殖では限りある海洋資源を守りながら、安定して養殖生産を続けることが可能になるのです。

養殖漁業に使われるエサについて

次に、養殖漁業で魚に与えられるエサの種類・与え方について見ていきましょう。

エサの種類

生餌
  • 生魚の切り身のこと
  • イワシやサバなど、さまざまな種類が与えられていたが、近年では栄養と品質管理の観点から使われなくなってきている
MP(モイストペレット)
  • 半生タイプの人工飼料。固形だが弾力があり、少し柔らかい
  • ビタミンなどの栄養を添付したり、魚の種類や健康状態にあわせ配合を変えることも可能で、多くの養殖漁業者が使用している
DP(ドライペレット)
  • 乾燥した固形タイプの人工飼料
  • しっかり固められているため水の中でもほぼ崩れず、魚の口に入りやすい
  • 養殖する魚の種類に合わせバランス良く栄養素が配合されていて、MPと併用するか、使い分けるかたちで多くの養殖業者が使用している

エサの与え方

手まき給餌
トラフグやヒラメなど、小さくてゆっくりエサを食べる魚に対しとられる給仕方法
給餌船給餌
ブリやカンパチなど、勢いよくたくさんのエサを食べる魚に対しとられる給餌方法。船に備え付けた専用の機会を使い、効率よく生け簀へエサをまいていく
自動給餌
マダイやシマアジなどの魚に対し、行われる給餌方法。生け簀の中央に設置した自動給餌機から、その日の水温や魚の健康状態を確かめたうえで、適切な時間に必要な量のエサを投下する

なお、かつての養殖漁業では魚が満腹になるまでたっぷりとエサを与える「飽食給餌」が主流でした。しかし近年では、より健康状態が良い魚を生産するため、そして残ったエサによる海洋汚染への配慮から、栄養学的に魚が必要とする量・質のエサのみ与える「適正給餌」が主流となっています。

食卓や料理店で食べている身近な養殖魚

スーパーや飲食店で目にすることの多い魚のなかには、天然ものよりも養殖ものの方が多く流通しているものもあります。
農林水産省の統計年報によると、平成30年度の主な魚種の養殖生産割合は以下の通りです。

4種の魚介類の養殖生産割合
ブリ類55%
マダイ80%
クロマグロ66%
クルマエビ82%

参考:グラフで見る養殖業 | 全国海水養魚協会」

養殖が盛んな魚のうち、私たちが口にすることの多い種類だけを抜粋しても、かなりの種類があることがわかります。

一般に広く流通している、養殖魚の例
ブリ、ハマチ、カンパチ、ヒラマサ、マサバ、マダイ、クロマグロ、トラフグ、ヒラメ、シマアジ、マアジ、クルマエビ、イシダイ、クロダイ、カワハギ、スズキ、チダイ、カサゴ、クロソイ、メジナ、イサキ、オオニベ、メジナ、マハタ、クエ

上記に加え、近年になってから養殖が始まった魚としてウナギが挙げられます。ウナギは生態に謎が多いことから、技術的には可能ながら積極的に養殖されて来なかった魚です。

しかし産卵場所の特定ができたこと、また生まれてからの生長過程が見えてきたことから、これから養殖による量産が可能になるのではないかと期待されています。

養殖できない魚や養殖に向いていない魚って?

たくさんの魚が養殖生産されている昨今ですが、まったく養殖されないものもあります。養殖できない、されない魚は「技術的に養殖が不可能」であるか、または「養殖しても収益化するのがむずかしく、ビジネスに向かない」か、どちらかの特徴を有しています。
技術的な問題以外にも、管理・育成にお金がかかりすぎたり、利益の出る価格で取引されない、売り上げが見込めないなどの理由から、養殖されない魚が存在するのです。

養殖していない魚の例
イワシ、サンマ、カツオ、アンコウなど

ただ、採算があわないため養殖には向かないとされていたカツオも、近年はブランド価値がある「トロカツオ」として流通できるように研究が進められています。今は高価で気軽に楽しめない、不漁で価格が安定しない魚も、そう遠くない未来には気軽に安定した価格で楽しめる日がくるかもしれません。

おわりに:養殖漁業は、漁業者にも環境にもメリットがいっぱい!

卵や稚魚の頃から人の手をかけ、育て上げてから出荷する養殖漁業は、海洋資源の枯渇が危惧される近年、注目されている漁業の方法です。なお魚の養殖生産は、海面養殖に加え陸上で行うことも可能。このため自然現象の影響を受けにくく、寄生虫リスクの低い安定した品質の魚を生産できます。具体的な手法や、養殖漁業が盛んに行われている背景を知ったうえで、市場に流通する養殖魚をありがたくいただきましょう。

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