土用の丑の日に欠かせないウナギは、日本人にとってなじみ深い魚ですよね。しかし近年、漁獲高の減少から価格が高騰を続け、なかなか手が出ない高級魚になってきています。
そんななか、比較的安価に入手できるとして重宝されているのが養殖ウナギです。
今回は養殖ウナギについて、ウナギを取り巻く現状や天然ものとの違いと見分け方、名産地の情報と一緒に解説していきます。
ウナギは絶滅危惧種?昭和と比べてどのくらい減ってしまったの?
未だに生態に謎の多いウナギですが、漁獲可能な状態まで成熟するには4~15年かかると考えられています。これを踏まえ、ウナギの成熟個体数の変動を12~45年間の3世代にかけて調査し、減少率を確認する調査が行われました。
その結果、日本全国の主要な河川における天然ウナギの3世代にわたる成熟個体数の減少率は72~92%であることが判明。この数値が、環境省が定める「レッドカテゴリーの絶滅危惧種」のうち「絶滅危惧ⅠB類」に該当することから、平成25年よりニホンウナギは絶滅危惧種となっているのです。
- 絶滅危惧ⅠB類とは
- 環境省レッドカテゴリーリストの区分のひとつ、「Endangered(EN)」
- 近い将来における、野生での絶滅の可能性が高いと認定されたもの
- 3世代における個体数の減少率が50%以上と推測される場合に適用され、ニホンウナギ以外にライチョウやムツゴロウ、アマミノクロウサギなども該当する
もともと漁獲高自体が少なかったウナギですが、昭和30年代以降は徐々に国内の養殖生産量が増加を始めます。そして昭和60年には、主に中国で日本への輸出を前提としたヨーロッパウナギの養殖が盛んになったことから、輸入量が増加。平成12年にはおよそ130,000tもの養殖ウナギが日本に輸入され、ウナギの輸入量・国内への供給量はともにピークを迎えています。
その後、ヨーロッパウナギの瀬減現象やワシントン条約への掲載を受けて海外でのウナギの養殖や取引そのものも規制の対象となったことで、日本への輸入供給量も急激に減少。平成28年には漁獲高、輸入量、養殖生産量のすべてを合計しても国内へのウナギ供給量はおよそ50,000tにまで落ち込み、ウナギの稀少価値は一層高まっていきました。
そして令和3年現在、私たちの食卓にのぼるウナギの99%がウナギの赤ちゃんであるシラスウナギを捕獲して育て、成熟個体になってから出荷する養殖ものです。
しかし、養殖に必要なシラスウナギの漁獲量も近年減少の一途をたどり、さらなる国内へのウナギ供給量の低下や価格高騰の背景となっています。自然資源である天然ウナギの漁獲高が劇的に回復する可能性は、残念ながら限りなくゼロに近いでしょう。このため、シラスウナギの減少で難しさが増す状況であっても、今後ますます養殖ウナギへの需要は高まっていくものと考えられます。
ウナギの養殖と天然の違いは?味はどちらもおいしいって本当?
令和3年現在、主流として行われている食用ウナギの養殖方法は以下の通りです。
ウナギ養殖の方法、環境
- 産卵場である海で生まれ、海流に乗って生育場である河口付近まで流れてきたシラスウナギを捕獲、養殖場へ移送
- 成熟個体になるまでおよそ1年かけて養殖場で飼育し、出荷される
自力で海から川へ移動して成熟個体になった天然ウナギと、稚魚の頃から養殖場で育てられた養殖ウナギの見た目には、以下のような違いが現れます。
天然ウナギと養殖ウナギ、見た目の違い
- 天然ウナギ
- 腹は黄色、背は黄みがかった茶色で、全体的に暗い色合い
- 養殖ウナギ
- 腹は白く、背は青っぽい黒色で、全体的に白っぽい色合い
味においては、天然ウナギより養殖ウナギの方が個体差や臭みが少なく、全体的に安定したおいしさだと言われています。ウナギの味は、生育していた場所の水質やエサなど、外敵な要因の影響を大きく受けてしまうため、天然ウナギの方がどうしても個体差が大きくなります。
対して養殖ウナギは、常に一定の質を保てるよう水質や水温、エサの管理が行われていますから、味や匂いに個体によるバラつきが現れにくいのです。
うなぎ養殖日本一は鹿児島!こだわりの育て方や安全性は?
日本養鰻漁業協同組合連合会の発表によると、養殖ウナギの生産量は全国のなかでも鹿児島県が最も多く、以下に愛知県、宮崎県、静岡県、高知県が続いています。
参考:「統計資料 都道府県別ウナギ生産量 – 日本養鰻漁業協同組合連合会」
鹿児島県では大隅地区を中心に、ウナギの養殖生産から加工、出荷までを地域で一貫して行い、全国へ安定的にウナギの供給を行っています。さらに、成熟個体・稚魚数ともに減少を続けるウナギを資源として守るため、平成24年には県ウナギ資源増殖対策協議会を設立。内水面漁協、養鰻団体、シラスウナギ採捕団体、生協などの消費者や大学の研究者らと共同し、ウナギの資源保護・増殖のため以下のような取組みを行っています。
- 県ウナギ資源増殖対策協議会の主な取り組み内容
- ウナギの生育環境改善試験、標識放流などの研究調査、ポスター配布などによる採捕制限の周知 など
そんな鹿児島県大隅地区のなかでも、ウナギを扱う代表的な企業として知られているのが株式会社鹿児島鰻です。
大隅地区は温暖な気候とシラス台地が作り出す豊富な地下水、そして稚魚の捕獲に適した志布志湾に恵まれた地域だと言われています。株式会社鹿児島鰻の事業所では、温暖な気候のなか「平成の名水百選」に認定された普現堂湧水源の300m下流に養殖池を設置。池底に砕石を敷き詰め、ウナギを育てています。
池底に砕石を敷くのは、少しでも天然ウナギの生育環境に近づけるための工夫です。この池底に砕石を敷くという手法は、洗浄や水質管理のための手間が増えるため、あまり養殖場で好まれる手法ではありません。しかし、株式会社鹿児島鰻では、地域自慢の名水を使い、手間を惜しまず自然に近い生育環境を作り出し、おいしく安全なウナギの養殖に取り組んでいるのです。
また、同じく雄鹿児島県内の志布志市でウナギの養殖・加工・販売を行う山田水産株式会社ではレストランショップ「うなぎの駅」をオープン。自社養鰻場で薬を一切使わず育てたウナギだけを使ったオーガニックうな重やうなぎカレー、ねぎ玉うな丼などの自社商材や、地域の名産品を販売しています。
ウナギの名産地・鹿児島県を訪れる人に対し、観光や食事の一環として養鰻に触れられる、貴重な場として親しまれています。
浜名湖の養殖ウナギの歴史は100年以上!養鰻場見学もできる?
ウナギの養殖地と言えば、静岡県浜松の浜名湖をイメージする人も多いでしょう。静岡県浜松市、浜名湖がウナギの産地として知られているのは、浜松市と浜中湖畔の歴史と地理的事情が関係しています。
天竜川河口や浜名湖で豊富にシラスウナギが獲れたことから、明治24年、浜中湖畔に作られたおよそ7haの池において、日本初人工池での養鰻が試みられました。シラスウナギの漁獲地という以外にも、浜松周辺には以下のようにウナギの養殖地として適した条件が整っていたといわれています。
- 浜松周辺でウナギ養殖が発展した要因
- 三宝原台地の豊富な地下水により、養殖に必要が水を確保できた
- ウナギのエサについても、後背地から供給される養蚕サナギでまかなえた
- 年間平均気温が15度前後と、温暖であった
試行錯誤を重ねた結果、明治末期には浜名湖畔での養鰻技術が完成。昭和に入ると、浜名湖畔でのウナギ生産量が飛躍的に向上したため、浜名湖は質・量ともに安定して養殖ウナギを出荷する名産地として全国的に定着したと考えられます。
現在も浜松市では、浜名湖畔に掘られた養鰻池でウナギの養殖が盛んに行われています。平成15年には、消費者が浜名湖養魚漁業協同組合から購入したウナギの飼育履歴を確認できるトレーサビリティサービス「養鰻日誌」も開始。一部事業所では4~10月にかけて養鰻場見学も実施し、養鰻について知りたい人、養鰻の安全性に興味を持つ人へ、知る機会を提供しています。
▼ 100年以上の歴史を持つ“うなぎ養殖”発祥の地・浜松|浜松市
サバや貝類も!養殖で地域と食文化を豊かに
令和2年9月、水産庁が発表したプレスリリースでは、漁港の陸域・水域活用のため、増養殖を推進するとしています。どんな種類の魚を養殖するかは、その漁港水域や立地環境、市場のニーズなどを踏まえ漁港事に決定しますが、例えば以下のような種類の魚類・貝類・藻類が対象となります。
養殖漁業の対象となるもの
- 魚類
- マダイ、ブリ類、スズキ、カンパチ、フグなど
- 貝類
- アワビ類、アサリ など
- 藻類
- ワカメ、ヒジキ、トサカノリ など
養殖による漁港の活用が進み、漁業を行う地域と私たちの食卓が、どちらも豊かになっていくといいですね。
おわりに:質も安全性も高い養殖ウナギ!特徴を知り、もっとおいしく味わおう
昭和60年以降、国内供給量が徐々に減少し、希少な魚となりつつあるウナギ。令和3年現在、私たちの食卓にのぼるウナギの99%以上が養殖ものですが、その養殖ウナギもシラスウナギの漁獲量減少により、価格の高騰が続いています。天然ものに比べ安価な養殖ウナギですが、その質は高く、個体によってバラつきが出やすい天然ものに決して劣りません。産地のこだわりや魅力を知り、よりおいしく、ありがたかく養殖ウナギをいただきましょう。
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