アニサキスは、一部の魚の内臓に寄生し幼虫期を過ごす寄生虫の一種です。私たちの食卓にのぼることの多い身近な魚に寄生していて、誤って食べると食中毒の原因となる場合があります。
今回は、アニサキスによる食中毒と症状、アニサキスに寄生される可能性の高い魚の種類や、養殖魚への寄生リスクなどをまとめて解説していきます。
おいしい魚に潜む寄生虫「アニサキス」とは?
アニサキスは体長およそ15㎜の寄生虫で、オキアミなどのプランクトンや小魚と一緒に魚の体内へ入り、まず内臓に寄生し、寄生している魚が死ぬと、徐々に筋肉の方へ移動し、肉(身)へ寄生します。
私たち人間がその身を誤って食べてしまうと、胃酸に驚いたアニサキスが胃壁や腸壁を食い破ろうとして暴れ、食後数十時間以内に食中毒症状を引き起こすのです。
アニサキスは寄生虫のなかでも大きく、目視で確認・除去できるサイズであるため、その多くは魚を加工する段階で取り除かれています。しかし、目視でアニサキスを100%完全に除去することはできません。
除去し切れなかったアニサキスを、刺身や寿司などとして生食した場合に限り、アニサキス症を発症するケースがあります。
激しい腹痛!アニサキスによる食中毒の種類と症状
アニサキスによる食中毒症状には、アニサキスが食いつく部位やその進度により、以下の種類があります。
- 胃アニサキス症
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- 口から入ったアニサキスが胃壁に突き刺さることで起こる症状。ただし、寄生虫が胃壁に突き刺さったことではなく、胃壁とアニサキスに対するアレルギー反応で発症する
- 食後3~4時間以内に上腹部痛、吐き気、嘔吐などの症状を伴う
- 腸アニサキス症
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- 口から入ったアニサキスが、腸に食いつくことで起こる症状
- 食後十数時間~数日以内に激しい下腹部痛、吐き気、嘔吐、発熱などの症状を伴い、放っておくと腸閉塞や腸穿孔(ちょうせんこう)へ至る可能性もある
- 消化器外アニサキス症
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- 口から入ったアニサキスが胃、腸など消化管を突き破って、腹腔へ寄生する症状
- 現れる症状は寄生した部位によって異なるが、胃アニサキス症や腸アニサキス症などに比べ発症例が少ない
- アニサキスアレルギー
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- 口から侵入したアニサキスに対し、体がアレルギー反応を起こした状態
- 全身への蕁麻疹や湿疹の発生、呼吸不全、血圧の低下、意識消失などの症状を伴い、アナフィラキシーショックを起こすと死に至る可能性もある
- 胃アニサキス症、腸アニサキス症など他のアニサキス症と併発するケースも多い他、青魚へのアレルギー反応と誤診されるケースも少なくない
アニサキスの疑いがあるなら病院へ!検査と治療の方法は?
アニサキスによる食中毒発症を予防したいなら、以下の対策を徹底してください。
アニサキス症に有効な予防対策
- 70度以上で1分以上加熱、または-20度以下で24時間以上冷凍してから食べる
- 魚を獲ってすぐ、新鮮なうちに内臓を取り除き、アニサキスが身へ移るのを防ぐ
- 魚から取り除いた内臓はすぐに捨てるか、生では絶対に食べないようにする
- 魚を調理する際、断面や表面を目視でよく確認してアニサキスを除去する
アニサキスは一定の温度で加熱、または冷凍処理すると死滅します。食中毒が心配なら魚は可能な限り加熱して食べるか、どうしても生食したい場合は生食用の魚を1日以上冷凍し、冷蔵庫で解凍して食べると良いでしょう。
アニサキス症の検査・治療
アニサキス症を発症してしまった場合は、病院で以下の処置を受けることになります。
- 検査の内容と手順
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- まずは似た症状の出る胃潰瘍、十二指腸潰瘍などと区別するため、問診を受ける
- 痛みの出ている部位へ体外から超音波を照射するエコー検査を行い、臓器の状態を確認
- エコー検査の結果、アニサキス症が疑われる場合は、胃カメラ検査を実施する
- 基本的な治療方法
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- 胃カメラ検査でアニサキスが確認された場合は、そのまま摘出する
- すぐに胃カメラ、摘出処置が行えない場合は、ステロイド薬や抗ヒスタミン薬などを処方し、経過観察していく
通常、アニサキス症は原因であるアニサキスを除去すれば、すぐに痛みが消え改善します。アニサキス症と思われる症状が現れたら、我慢せずにできるだけ早く医療機関を受診し、適切な検査・処置を受けてください。
サバやヒラメ、サーモンも?!アニサキスのリスクが高い魚介類
アニサキスは生まれてすぐ、まずオキアミなどのプランクトンに寄生し成長します。このため、アニサキスに寄生されるリスクが高い魚介類は主にプランクトンなどをエサとする種類に限られています。
具体的にはサバ、アジ、サンマ、イワシなどの青魚、サケ・マス類、カツオ、イナダ、ヒラメ、イカなどから発見されることが多いです。
養殖の魚にはアニサキスがいないの?アニサキスフリーのブランド魚を紹介
基本的にプランクトンなどを食べず、人工飼料を食べて育つ養殖魚は、天然魚に比べアニサキスに寄生されるリスクがかなり低いことがわかっています。
実際、生きた小魚などをそのまま与える生餌が行われていない養殖魚からは、アニサキスはほとんど発見されていません。
この事実を受け、養殖に取り組む漁業者のなかには、アニサキスフリーで安心して生食できる魚の養殖に取り組むところもあります。例えば、サバ料理専門の飲食店を経営するSABARでは、和歌山県串本町の研究・飼育施設にてアニサキスフリーのサバ「こりゃ!うめえサバ」を開発。
和歌山県の名産品である南高梅を加えたエサを使い、卵から成体になるまで完全養殖することで、おいしくアニサキス症への心配のないサバの生産に成功しています。
おわりに:養殖魚にアニサキスはほとんどいない!予防対策を徹底して、おいしく魚を食べよう
アニサキスはプランクトン、プランクトンを捕食する魚に寄生し、最終的には海洋哺乳類のなかで成虫となる寄生虫です。このため、主にプランクトンをエサとする天然ものの青魚、サケ・マス類、カツオ、ヒラメ、イカなどの魚介類に寄生しています。しかし人工飼料で育てる養殖魚の場合、アニサキスが寄生するリスクはほとんどありません。魚を生産する現場では、アニサキスフリーで安心して生食できる養殖魚の開発も進んでいますよ。
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