刺身や寿司ネタになることの多いヒラメは、日本では高級白身魚として知られています。
今回は比較的安価で購入できる養殖ヒラメについて、天然ものとの違いや生育環境、食べるうえでの注意点などと一緒に解説していきます。
ヒラメってどんな魚?「左ヒラメに右カレイ」とは?
まずはヒラメがどのような魚なのか、基本的な生態について理解していきましょう。
ヒラメの基本情報
- 分類…カレイ目ヒラメ科ヒラメ俗
- 英名…large-tooth flounders
- 生息域…日本近海の全域、樺太、千島から香港近海までの南シナ海の水深10~200mの砂地
- エサ…小魚、貝類、ゴカイ類などあらゆる動物を食す
- 体長…3年で生体となり、3~5年の間に50㎝くらいになるのが一般的だが、大きいものでは体長1m以上、重さ10㎏になるものも
- 産卵…春から夏にかけて産卵期を迎え、沿岸の荒磯または岩礁で産卵する
- 旬…産卵に向けて脂肪をたくわえる晩秋から冬、初春くらいまで
- その他…体表を保護色に変える能力を持っていて、15分ほどで周囲の色に同化できる
平たく、潰れたようなかたちのヒラメは、頭蓋骨がねじれ、左右の目が上を向いてついています。
ヒラメとカレイ、見分けのポイント
ヒラメと似た特徴を持ち、混同されることの多い魚としてカレイが挙げられます。ヒラメとカレイは、口のかたちと大きさ、そして目が上になるように置いたときの頭の向きで区別することができます。
ヒラメとカレイを見分けるためのポイントをまとめていますので、参考にしてください。
- ヒラメの特徴
-
- 口が大きく、鋭い牙がある
- 腹を下側にし、目が上にくるよう置いたときに頭が左を向いている
- カレイの特徴
-
- 口が小さく、おちょぼぐちになっている
- 腹を下側にし、目が上にくるよう置いたときに頭が右を向いている
簡単な覚え方として有名なものは、「左ヒラメに右カレイ」です。ただし、日本近海に棲むヌマガレイという魚は、カレイに分類される魚ですが左向きに目がついているように例外はあります。これは、生息域により目の付き方に違いが出ることが原因と考えられています。
目だけを見てどちらかわからないときは、口の大きさ・かたちも確かめて見てください。
ヒラメに含まれる栄養素
ヒラメに含まれる栄養素を紹介していきます。ヒラメに含まれる代表的な栄養素とその役割は、以下の通りです。
ビタミンB1
- 糖質のエネルギー代謝を助ける栄養素
- 神経系の機能補助、イライラや集中力低下の予防、倦怠感や疲労感の軽減にも役立つ
ビタミンB2
- 糖質のエネルギー代謝を助ける栄養素
- 他にも細胞の再生、肌や粘膜の炎症・荒れの抑制、免疫力向上、過酸化物質分解による動脈硬化、生活習慣病予防効果も期待できる
ビタミンD
- カルシウムの吸着をサポートし、骨や歯を守ってくれる栄養素
- 骨粗鬆症の予防、免疫力向上に効果的
ビタミンC
- 細胞、体の酸化を抑える抗酸化作用の高い栄養素
- 皮膚や粘膜のバリア機能を高めて肌荒れ、風邪を予防する他、動脈硬化など重大疾患の発症リスクも低減してくれる
セレン
- 体からの有害物質の排出を促し、酸化による体の老化を防ぐ栄養素
- 甲状腺ホルモンを活性化することで免疫系を正常に保つミネラル成分で、不足すると関節症、筋肉痛、皮膚の感想、生殖能力低下などの原因となる
パントテン酸
- おもにタンパク質、糖質、脂質の代謝と、ストレスへの適応を補助する栄養素
- 不足すると倦怠感、肌荒れ、発育不良、手足のしびれ、免疫力低下を引き起こすが、熱や酸、アルカリによって壊れる性質があるため摂取が難しい
ナイアシン
- およそ500種類もの酵素を活性化させ、体内でさまざまなエネルギー生産・代謝を助けてくれる栄養素
- アルコールの分解にも役立つため、積極的に摂取すると二日酔いや肌荒れ、倦怠感、脂肪肝、うつなどの予防・改善に効果的
タウリン
- 含硫アミノ酸の一種
- 血圧を正常に保ち、血中コレステロール値を減少させる働きがあり、生活習慣病や心臓病、肝臓病、貧血、糖尿病、アルツハイマー型認知症予防に効果的
その他の栄養素
- DHAやEPAなど青魚に含まれる良質な脂質、イノシン酸やグルタミン酸などの各種アミノ酸、コラーゲンなども含まれている
ヒラメの栄養を活かす食べ方
上品でたんぱくな白身が魅力で、どんな調理法・味付けにもマッチするヒラメには、体にうれしい栄養素も豊富に含まれています。ただし、ヒラメに含まれる栄養素には熱に弱いものもありますので、栄養を余すところなく摂取したいなら、加熱調理と生食を併用しましょう。
身が厚く透き通っていて、ぬめりが少ない鮮度の良いヒラメを選び、刺身や寿司、塩焼き、ムニエル、煮つけなどさまざまな調理法でいただけます。いろいろと試しながら、自分の好みの調理法を見つけてください。
天然のヒラメと養殖の見分け方は?
生態や栄養素など、ヒラメについての理解が深まったところで、ここからは養殖ものと天然もの、それぞれのヒラメの見分け方や違いを見ていきましょう。
ヒラメが天然ものか養殖ものかを見分けるには、「腹の色」を見ると良いとされます。自然界で育った天然もののヒラメは腹が真っ白ですが、人間に管理された生け簀で育てられた養殖ヒラメの腹の一部に黒っぽい斑点、まだら模様があるのが特徴です。
基本的には「腹が真っ白なものが天然ヒラメ」「腹に黒い模様があるものが養殖ヒラメ」と覚えておきましょう。
ただ、近年では砂を敷いた生け簀で育てられる養殖ヒラメもあり、この場合は養殖ものでも腹が白くなることがわかっています。養殖技術の進歩により、天然ヒラメと養殖ヒラメを見分けにくくなっているという事実も、併せて覚えておきましょう。
なお味については、養殖ヒラメの方が年間を通して脂乗りが良く、身が柔らかいとされています。しかしそ、の分足が早く、天然ものに比べ傷みやすいとされるのも養殖ものの特徴です。
対して天然もののヒラメは、旬を迎える晩秋から冬、初春にかけては脂乗りが良くおいしいですが、夏には脂肪が減り味が落ちるとされます。また、季節以外にも、生育環境や個体差によっても味や身の質にバラつきが出ます。
ただし、天然ものは、海の中で泳ぎ回っているため身はしっかりとしていて、養殖ものに比べ日持ちしやすいです。
天然ものと養殖もの、どちらにも長所と短所がありますので、好みに合わせて選んでくださいね。
ヒラメの養殖方法と生産量が多い県って?
他の種類に比べあまり動かず、砂の中でじっとしていることの多いヒラメは、以下2種類の方法で養殖が可能です。
- ヒラメの養殖方法1:海面養殖
- 比較的浅瀬、沿岸の静かな海面に囲い網をしたり、筏を浮かべて行う養殖方法のこと
- ヒラメの養殖方法2:陸上養殖
- 陸上に作った生け簀の中で行う養殖のこと。ヒラメを陸上養殖する場合は、海水を継続的に引き込み飼育する「かけ流し式陸上養殖」で育てるのが一般的
必要なスペースと酸素消費量が少ないこと、また18~24度と一定の水温で生育する魚であることから、近年のヒラメ養殖は特に陸上養殖が盛んになっています。
なお、日本国内で養殖ヒラメの生産量が多いのは大分県、愛媛県、三重県、鹿児島県、長野県の5県で、九州や四国、関西地方を中心に比較的温暖な場所で養殖が行われています。
養殖ヒラメは「クドア」に注意
ヒラメを生食する場合、クドアという寄生虫が原因の食中毒を発症する恐れがあります。
- クドアとは
-
- ヒラメに寄生することで知られる、クドア属の寄生虫の一種
- 寄生されたヒラメの身を生で食べた場合、数時間以内に下痢や嘔吐など、比較的軽度な食中毒症を現す
- 特定の条件下で飼育、つまり養殖されたヒラメに寄生することが確認されており、天然もののヒラメにはほとんど見られない
クドアによる食中毒は、クドア胞子を多量に摂取した場合のみ起こると考えられています。仮にクドアに寄生されているヒラメの身を食べても、その身に含まれる胞子の量がわずかであれば、発症することはありません。
クドア食中毒予防のための対策
すべての養殖ヒラメがクドアに寄生されているわけでもありません。適切に衛生管理されている養殖場でヒラメがクドアに寄生されるリスクは低いため、各養殖場や飲食店などでは農林水産省の指導のもと、以下の対策が取られています。
- ヒラメの養殖場においては、適切に衛生管理をしクドア寄生を予防すること
- 飲食店や量販店においては、クドアの病原性が失われるよう一度凍結させてから生食、または中心温度が75度以上の状態で5分以上加熱してから提供・販売すること
養殖ヒラメを食べるにあたり、クドア感染症のリスクが気になるという人は、よく加熱調理してから食べるようにしてください。
日本の養殖ヒラメの注目ブランドを紹介
最後に、養殖ヒラメ名産地である大分県と愛媛県より、注目のブランドヒラメの特徴と魅力を紹介していきます。
大分県|かぼすヒラメ
- 大分県が生産量日本一を誇るかぼすをエサとして与え、養殖した特選ヒラメ
- 大分県独自のクドア対策ガイドライン、そして以下の標準規格を満たすものだけを「かぼすヒラメ」と認定し、自信をもって出荷している
- おいしいかぼすヒラメの標準規格
-
- かぼす果汁をエサの1%使用すること
- 出荷前に、上記基準を満たすエサを20回以上給餌すること。または、かぼす果皮のパウダーをエサの0.5%使用すること
- 上記基準を満たすエサの場合、出荷前に25回以上給餌すること
- 1尾あたり1㎏前後であること
愛媛県|横綱ヒラメ
- 試行錯誤の末に生産が可能になった、エンガワが厚く脂の乗った養殖ヒラメ
- 取引する飲食店、加工業者から「日本一」と称されるほどの厚くおいしい身が自慢で、規定の50倍の数のヒラメを検査するなどして、クドア対策にも注力している
- 生産元である赤坂水産の公式インスタグラムアカウントでは、横綱ヒラメの写真を見ることもできる
おわりに:養殖ヒラメは時期を問わず脂乗りが良く、柔らかくておいしい!
鯛と並び高級白身魚として知られるヒラメは、海面だけでなく陸上での養殖も可能です。日本国内では大分県や愛媛県、三重県、鹿児島県、長野県などで盛んに生産されており、市場に広く流通しています。年間を通して脂乗りが良く、柔らかい身を安定した価格で販売される養殖ヒラメ。近年では独自の生育方法、安全基準のもと養殖ヒラメをブランド化する産地も出てきましたので、興味のある人は現地の飲食店で食べてみましょう。
コメント