海苔は、お寿司やおにぎりに使われる「ごはんのおとも」として日本人に親しまれてきた海藻です。養殖されていることは知っていると思いますが、養殖の方法や海苔養殖の現状、海苔のブランドごとの特徴については、あまり知らないという人もいると思います。
今回は、海苔の歴史と名産地、海苔養殖の現状、通販でも購入できる美味しく消化に良い海苔ブランドなど、日本人が大好きな海苔について詳しく解説していきます。
海苔の養殖の発祥地は東京?海苔の歴史の始まりは?
日本における海苔の歴史は、飛鳥~奈良時代と呼ばれる西暦700年代にまで遡ります。公式文書に初めて海苔が登場したのは、757年に大宝律令を改編して作られたという「養老律令」で、収めるべき税のひとつとして「紫菜(ムラサキノリ)」の記載が見られます。
その後も紫菜は、平安中期の書物「延喜式」などに租税の対象、宮廷の公式行事や宴会に出す汁物の具などとして登場し、鎌倉時代以降になると、大陸から入ってきた食文化の影響から公家関係の書物から海苔の記載は少なくなるものの、仏教や武家の世界で海苔が使われるようになったといわれています。
江戸時代以前までは、海苔は海に漂っているもの、海に付着している天然ものを収穫し、食べるものだったようです。江戸時代に入ると、海苔を好物とする徳川家康に献上するため、江戸では東京湾を利用した「海苔の養殖栽培」が始まります。
海苔の養殖がとくに盛んだったといわれているところは、川が海に注ぎ適度な潮の干満が発生する品川~大森にかけてのエリアです。大森周辺は1716年~1736年にかけて海苔の養殖生産に力を入れるようになり、1746年からは幕府に対し海苔業税を支払い、徳川家へ最高品質の海苔を献上する一大産地となりました。
現在でも親しまれている「板海苔」の製法(和紙のように、すのこで海苔をすいて四角く整形して乾燥させてつくるやり方)が定着したのは江戸時代中期ごろです。それまでは、「木ヒビ」と呼ばれる木材を浅瀬に建て、そこへ自然についた海苔を収穫し、乾燥させたものをそのまま食べたり、塩海苔や佃煮などに加工して食べていました。
このように、江戸で生まれて確立された海苔の養殖と加工の技術は、徐々に全国各地へ伝わり、新しい名産地を生み出していきました。大森の海苔文化は1963年、東京オリンピック開催に伴い周辺の港湾が再開発されるまで続き、当時は大森だけで1,000軒もの海苔養殖業者がいたそうです。
なお、大森の海苔養殖業者は再開発が行われる少し前の1962年、高度経済成長に伴う海の汚染もあって、漁業権を放棄しています。このことから、大森にあった海苔の養殖場は、すべてなくなりました。
2月6日は「海苔の日」に制定されているって知ってた?
毎年2月6日は、「海苔の日」です。海苔の日は、1966年に全国海苔貝類漁業協同組合連合会が定めました。これは、2月6日が日本史上の文献で初めて海苔が登場した大宝律令施行の日であることが由来です。
海苔の日は、全国的の海苔の消費促進を目的に制定されましたが、現在では、海苔を使った恵方巻を食べる習慣のある2月3日の節分から海苔の日である2月6日前後の一週間を「海苔ウィーク」とし、海苔の販促イベントなども行っています。
海苔の主な生産地|日本一の県は?
国産海苔のおよそ4割を生産する、日本最大の海苔の産地は佐賀県、福岡県、熊本県、長崎県の4つの県にまたがる有明海です。なかでも、佐賀県は海苔の生産が盛んな県として知られ、全国1位になることも多いです。
次いで生産量が多いのが瀬戸内海で、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、香川県、徳島県、愛媛県、大分県の広範囲で国産海苔のうちおよそ3割を生産しています。そのほか、伊勢湾に接する三重県、東京湾のある千葉県、神奈川県でも海苔の生産が行われていて、最北端は仙台湾に接する宮城県といわれています。
有明海の海苔が高品質で生産量も多い理由とは
全国で有明海がとくに海苔の養殖に適しているとされるのは、海苔の生育に適した以下の環境条件を満たしているためです。
- 海苔の生育に適した環境の条件
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- 100以上もの河川が流れ込む河口のため、海苔に必要な栄養が豊富
- 淡水と完遂が混ざり合い、水が海苔の適した塩分濃度になっている
- 1日の干満差が最大で6mもあり、海苔の光合成が促進される
栄養豊富で心地よい塩分濃度のなかで育ち、光合成でたっぷりと栄養を蓄えた有明海産の海苔には、独特の柔らかさと旨味が生まれます。また、海苔養殖に携わる漁協や自治体が生産する海苔の量と質を高めるために、以下のような取り組みを積極的に行っているのも有明海周辺地域の特徴でしょう。
- 佐賀県で実施されている、有明海での海苔生産のための取り組み
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- 佐賀県水産振興センターから海峡情報や推奨される網の高さ、摘み取りのタイミングを漁業者へ共有し、病気や自然現象による被害を最小限に抑える
- 海苔の生育に必要な栄養塩を確保するため、漁協が一丸となって周辺の山々に栄養塩のもととなる落葉樹の植樹を行う
養殖海苔の主な種類海苔を育てる方法は?
現在、一般的に行われている海苔の養殖方法は「網ヒビ」と呼ばれる縦2m×横20mの網に人為的に海苔の胞子をつけ、浅瀬に水平に張るというものです。
海苔の赤ちゃんにあたる胞子は、もともとは自然界から漁獲したものが使われていましたが、近年は海苔の高品質化と安定化のため、改良品種が使われています。改良品種を使うことで、収穫量の確保、海苔のかたちや色つやの向上、風味や旨味の向上、成長速度の向上、病気への耐性の向上が達成できたとされています。
養殖対象となる海苔
養殖対象となる海苔の種類と特徴、それぞれの系統で交配・改良されて生まれた品種については以下の通りです。
アサクサノリ
- 北海道南西部~九州南部の内湾部、潮間帯に分布
- 秋から春にかけてが生育期
- 12月下旬~4月頃まで出現する種類で、大きさは長さ15~20cm×幅7~12cmが目安
- かつては東京湾での養殖の主流だったが、現在は絶滅危惧種に指定されるほどの希少種
- 品種改良の主力にもなっていて、新たに誕生した同系統の海苔の養殖もおこなわれている
- 品種改良により生まれた同系統の海苔
- オオバアサクサノリ、ミノミアサクサノリ、テラズアサクサノリ、ユノウラアサクサノリ、オオバグリーン、アリアケ1号、あさぐも
スサビノリ
- 宮城県以北~北海道西南部の湾口、湾外など外海に面した場所に分布
- アサクサノリと同じ時期に出現するが、生育期間が長いのが特徴で大きさは長さ15~23cm×幅16cmが目安
- 品種改良も積極的に行われており、同系統の「ナラワスサビノリ」は現在養殖されている海苔の主力になっている
- 品種改良により生まれた同系統の海苔
- ナラワスサビノリ、フタマタスサビノリ、エノウラスサビノリ、ノマ1号、フクオカ1号、サガ1号、あさぐも
ウップルイノリ
- 北海道の十勝~宮城県にかけての太平洋沿岸、日本海沿岸の広範囲に分布
- 外海に面した岩などに、初秋~冬にかけて生育する種類
- 大きさは長さ30~50cm×幅2~3cmが目安
- 他の種類よりも出現のタイミングが早いため「新海苔」「岩海苔」として出荷され、高値で取引されることも多い
マルバアサクサノリ
- 青森県~宮城県あたりの太平洋沿岸、特に河口域の潮間帯に分布
- 大きさは長さ10~20cm×幅8~36cmが目安
- かつては積極的に養殖されていた種類ですが個体数が減少し、絶滅危惧種の指定を受けている
ギフトにも自宅用にも!通販で買えるブランド海苔【有明海・千葉】
通販でも購入可能なおすすめのブランド養殖海苔を、有明海(佐賀県、熊本県)と千葉県から計4種類紹介していきます。良い海苔は贈り物としても喜ばれますので、自分で食べるのはもちろん、贈答品としてもおすすめです。それぞれの特徴をしっかり確認し、お気に入りを見つけてください。
佐賀海苔 有明海一番|佐賀
- 有明海の恵みと、太陽から得た栄養がギュッと詰まった佐賀県産のブランド養殖海苔
- 一番摘みの初物を使っている
- うま味のもととなるタンパク質含有量が50%以上、香りのレベルは優以上、食感測定値45回以内になるよう作られた、くちどけの良い逸品
有明の風|佐賀
- 種付けをしてから30日を目安に、11~12月にかけて摘み取るブランド養殖海苔
- 養殖生産される海苔のなかでも特に若く、柔らかな海苔を使って作られる焼き海苔
- 食べた瞬間のサクッとした感触と切れの良い歯ごたえ、トロっとしたくちどけが特徴
塩屋一番|熊本
- 阿蘇山、金峰山から流れてきた栄養をたっぷり蓄えた海苔
- うま味・柔らかさ・香りなどの厳しい検査を合格した海苔のみ塩屋一番の名称が与えられる
- 豊かな磯の風味、はぎれの良いくちどけが特徴
江戸前ちば海苔|千葉
- 千葉県の東京湾で育てられる、いまは失われた江戸前を自称するブランド養殖海苔
- 海苔の養殖に適した冬の東京湾と太陽の恵みを得て、厳格な品質管理ルールをクリアした材料だけを使って作られる
- グルタミン酸、イノシン酸などアミノ酸の含有量が多いため香りもうま味も引き立っている
- くちどけが良いため、消化が良いところも特徴
金田産一番摘みあま海苔|千葉
- 木更津市の金田地域で、伝統的な支柱柵を使って作られるブランド養殖海苔
- 一番積みの海苔だけを使用し、とろけるような食感と口の中に広がるうま味、香りを堪能できる逸品
- 地域のブランド品として積極的に販売されており、贈答にも適した桐箱入りのものが通販で購入できる
おわりに:佐賀県の有明海沿岸、千葉県の東京湾沿いは養殖海苔の名産地!
海苔は、西暦700年代から日本人に食べられてきた食品です。江戸時代に入ると現在の東京湾沿岸で養殖技術、板海苔の製法が確立され、全国的に生産・流通するようになっていきました。現在では、有明海のある佐賀県が国産海苔のおよそ4割を生産する名産地として知られています。他にも東京湾で江戸前海苔を作る千葉県など、名産地ではブランド化も進んでいますので、自分や大切な人へのプレゼントに養殖海苔を活用しましょう。
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