サケに似た鮮やかな身色が特徴で、マス寿司などの原料として日本で古くから食べられてきたサクラマス。
今回はサクラマスがどのような魚なのか、ヤマメとの違いや含まれる栄養素、養殖に挑戦する事業者が増えている背景から注目のブランド商品のことまで、まとめて紹介します。
サクラマスはどんな魚?ヤマメとの違いは?
マス、ホンマスとも呼ばれるサクラマスは、河川で生まれた後に海へ下り生息する「降海型」のヤマメのことです。
サクラマスは生まれてからおよそ1年間を河川で過ごし、春に海へと下っていきます。その後、またおよそ1年間を海で回遊して過ごし、翌年の春には生まれ河川へと遡上して戻り、淵に潜みエサを採らずエネルギーの消費を抑えながら繁殖期の秋を待ちます。
海から河川へ桜が咲く季節に戻ってくる習性があること、繁殖可能な成魚の証として体の側面に現れる婚姻色がきれいな桜色であることから、この名がつきました。
対して、海へ下らず生まれた河川で一生を過ごす「残留型」のヤマメは単にヤマメと呼び、サクラマスとは区別されます。ちなみに、海へ下らずとも河川でたくさんのエサを採れる強い個体ほど、ヤマメとして生きる傾向があるそうです。
サクラマスのおもな生息域は、ロシア、朝鮮半島周辺のオホーツク海沿岸と北海道などの北日本の河川と海です。平均的な体長や成魚になるまでにかかる時間など、サクラマスの生物学的特徴は以下にまとめています。
サクラマスの生物学的特徴
- 体長、体重
- 個体差があるが30~70㎝、0.5~8㎏になることもある
- 成魚になるまでかかる期間
- 繁殖可能になるまでおよそ2年、寿命は3~4年
- 産卵
- 北緯から順に7~11月の間で1か月前後、河川の上流~中流で起こる
- エサ
- 河川では虫や小魚、海では大型のプランクトンや小魚を食べる
サクラマスの栄養は?天然ものは寄生虫に気をつけよう
サクラマスに含まれる代表的な栄養素と期待できる健康効果は、以下の通りです。
サクラマスに含まれる栄養と効果
- アスタキサンチン
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- 自然界の色素の一種で、サクラマスの身色のもと
- 緑黄色野菜などに含まれるβカロテン、リコピンと同じカロテノイドの一種
- 抗酸化作用が高く、体を若々しく健康な状態に保ち、老化を抑制する効果が期待できる
- DHA
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- ドコサヘキサエン酸のことで、多価不飽和脂肪酸と呼ばれる脂質の一種
- 魚類に多く含まれる不飽和脂肪酸
- サクラマスには可食部100gあたり960mgを含有するが、焼いて調理すると100gあたりの含有量が1400mgになる
- 血中の中性脂肪やコレステロールの数値を下げて血流を改善したり、心筋梗塞や脳梗塞の予防、精神安定、脳・神経機能の活性化、免疫力向上などの効果を期待できる
- EPA
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- エイコサペンタエン酸のこと
- DHAと同じく、魚類に含まれる多価不飽和脂肪酸の一種
- サクラマスの可食部100gあたり390 mg含まれ、焼いて調理すると100gあたりの含有量が570mgになる
- 血中の中性脂肪やコレステロールの数値を下げ、血圧の低下や血流の促進に役立つ
- これら生活習慣病が原因で起こる心筋梗塞、脳梗塞の予防効果も見込める
可食部100gあたりに含まれるビタミン類、ミネラル類の種類と含有量
ビタミン類
- ビタミンA… 63㎍
- ビタミンD… 10㎍
- ビタミンE… 2.3mg
- ビタミンC… 1mg
- ビタミンB1… 0.11mg
- ビタミンB2… 0.14mg
- ビタミンB6… 0.52mg
- ビタミンB12… 7.6㎍
- 葉酸… 21㎍
- パントテン酸… 0.97㎍
- ナイアシン… 8.8㎍
ミネラル類
- ナトリウム… 53mg
- カリウム… 390mg
- カルシウム… 15mg
- マグネシウム… 28mg
- リン… 260mg
- 亜鉛… 0.5mg
- 鉄… 0.4mg
動物性タンパク質を主成分とするサクラマスですが、私たちの体の健康維持に欠かせないさまざまな種類のビタミン類、ミネラル類が含まれていることがわかりますね。
生でも、火を通して食べてもおいしいため、生食ならマス寿司やアイヌ料理のルイベ、加熱調理するならフライやムニエル、塩焼きにすると良いでしょう。
好みの食べ方でかまいませんので、積極的にお食事のメニューに取り入れサクラマスの栄養素をおいしく効率よく摂取してください。
急な腹痛に苦しむことも!天然のサクラマスと寄生虫リスク
伝統的に生食されてきたサクラマスですが、自然界で漁獲された天然もののサクラマスには腹痛など食中毒症状を引き起こす寄生虫がいる可能性があります。このため、サクラマスの身を生食するのは、基本的に避けるべきと考えられてきました。
しかし、一度冷凍してしまえば、サクラマスの寄生虫は死滅させることが可能です。アイヌ料理の「ルイベ」では、サクラマスの身を一度凍らせてからスライスし、刺身のようにして食べますが、これは凍らせることで寄生虫を死滅させ、食中毒を防ぐことが狙いだったと考えられています。
ただし、冷凍方法に落ち度があると、サクラマスの身から水が出たり、身が崩れるなどして、味が落ちてしまうのが難点があります。このことから、天然のサクラマスの価値は冷凍技術に大きく左右されてしまうという現状がありましたが、近年では冷凍技術の進歩により冷凍処理を施したおいしい天然サクラマスも出てきています。
サクラマスの漁獲量が減少中!養殖でサクラマスのピンチを救う
サクラマスが漁獲されているのは、おもにロシアと北日本の近海です。
ただし、ロシアではハバロフスク地方、沿岸地方での漁獲は禁止されているため、サハリン州で行われているのは他の魚と一緒にサクラマスを狙う混合漁のみになります。
このため、漁獲される天然サクラマスのほとんどは一本釣りや刺し網、底引き網などさまざまな手法で水揚げされた日本産のものです。しかし、日本での天然サクラマスの漁獲量も、ここ明らかな数十年で減少傾向が見られます。
- 天然サクラマス漁獲量の変化
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- 富山県…1980年代には20tを超えていたが、2006年以降は5t未満に
- 新潟県…2011年を最後に、20tを超える漁獲量は報告されていない
- 青森県…富山県や新潟県ほどではないが、毎年確実に漁獲量が減少
富山県、新潟県、青森県の各県では1990年代までは年間300tものサクラマスが獲れたと記録されていますが、2000年以降は200tを下回る年も出てきています。
秋田県や山形県など、上記3県以外に漁獲量が増した地域もありますが、一大生産地だった北海道での漁獲量も減っていることから、サクラマスそのものの個体数が減少し、資源枯渇の危機にあるのではとも考えられています。
身が美しく、おいしいサクラマスは、現在も全国の高級料亭などで使われる人気の食材であり、ニーズも大きいです。
サクラマス養殖の挑戦!マルハニチロの陸上養殖、宮崎大学発Smoltの完全養殖
サクラマスは高値での取引が期待できることから、積極的に養殖が進められ、養殖技術の研究が続けられました。
以下からは、サクラマス養殖の方法や現状を解説していきますが、今回は企業や自治体、学校法人などが協力して取り組み、成功させたサクラマス養殖の具体的な事例を2つ紹介します。
山形県とマルハニチロの陸上養殖サクラマス
山形県農林水産部、水産品を使った食品の加工・販売などを手掛けるマルハニチロ株式会社、その他複数の企業や機構、学校法人などが競合して成功させたプロジェクトです。各事業者が技術を持ち寄り、日本の固有種であり山形県の産品のひとつであるサクラマスを陸上に設置した生け簀で水を循環させて育てることに挑み、見事成功しました。
研究代表機関であるマルハニチロは2020年3月、国内で初めて陸上養殖のサケ基準を満たし、このサクラマスでASC認証の取得もしています。
- ASC認証とは
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- 水産養殖管理協議会が行う認証のこと
- 周辺環境への負荷を軽減し、地域社会へも配慮しながら養殖業者の権利を守る「責任ある養殖」がされた水産品である、という証明になる
宮崎大学発のベンチャー企業Smoltの養殖サクラマス
サクラマスの生きざまをリスペクトする大学発のベンチャー企業が、水産業や魚食文化を未来へのこすため、技術の革新と養殖業のイメージアップをめざすプロジェクトです。
自然界の資源を守り、可能な限り自然に負担をかけずサクラマスの養殖を行うために、卵の人工ふ化から稚魚の生産、成魚の出荷、親魚の確保まで完全養殖を成功させています。
なおSmoltで養殖されたサクラマスは、水煮缶に加工されSmolt通販サイトで販売も行われています。
サクラマスの養殖ブランド|淡路島サクラマス、佐渡満開さくらますなどが注目
積極的な研究開発により、可能になってきた稀少なサクラマスの養殖は、近年では事業として養殖サクラマスを育て、地域のブランド品として打ち出すところも出てきています。
以下からはブランド化に成功した例として、淡路島と新潟県佐渡、山形県の養殖ブランドサクラマスの魅力を紹介していきます。
淡路島サクラマス
- 鳴門海峡の影響で潮流の速い、淡路島は福良湾で育てられた大きな養殖サクラマス
- 2017年3月に新しいご当地グルメとしてブランド化されたもの
- 長く養殖業に携わる漁師により自然に近い環境で4~7か月かけて1㎏近くなるまで育てられる
- 旬を迎える3~5月には島内の40か所の飲食店で食べられる
- 通販を利用すれば鍋セット、フィレ、漬け、アヒージョの缶詰などを購入可能
佐渡満開さくらます
- サーモンの養殖を得意とする弓ヶ浜水産が、佐渡沖で完全養殖したサクラマス
- 減少を続ける天然サクラマスを保護するための取り組みの一環として行われている事業
- 1尾ずつ活〆した鮮度・品質ともに高い状態で、飲食店などへ出荷している
- 一般消費者向けには、ふるさと納税の返礼品というかたちで期間限定で通販も行う
山形産ニジサクラ
- 県魚とするサクラマスと、養殖しやすいニジマスを掛け合わせて生み出した養殖品種
- 山形県が主体となり、地域の養殖業者や飲食店と連携して作ったブランド養殖魚
- サクラマスの上品な味わいとニジマスの大きさ、成長の早さを併せ持つ
- 2022年を目途に、山形県内の宿泊施設や飲食店を中心に流通させられるよう、準備が進められている
おわりに:積極的に養殖生産されるサクラマス!安価で安全に食べられるようになる日も近いかも
日本の固有種であり、焼き魚や寿司ネタとして伝統的に食べられてきたサクラマスは、日本人にとって身近な魚です。しかし近年、数少ない生息域である北日本での漁獲量が減少傾向にあり、希少価値が上昇。食材としてのニーズに応えるべく、積極的に養殖技術の開発が進められてきました。複数の企業や自治体、学校法人、研究機関で協力して開発・生産する地域も増えてきていますので、生食可能でおいしい養殖サクラマスをぜひ食べてみましょう。
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