寿司ネタだけでなく、さまざまな料理に使われ世界中で人気を集めるサーモン。日本語でサケと訳されますが、「サーモン」と「サケ」はどのように区別されているのでしょうか。
今回はサーモンとサケの違いを、味や適切な調理法、感染症発症リスクなどの観点から解説し、日本各地で養殖されているブランドサーモンについても紹介していきます。
サケとサーモンは同じじゃない?
日本において「サケ」と「サーモン」は、以下の基準で明確に区別されています。
サケとサーモンの違い
- サケの定義
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- 焼き魚やムニエルなど、加熱調理することを前提としたもの
- 川や海で漁獲できる、天然もののベニザケやシロサケのこと
- サーモンの定義
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- 刺身などで食べることを前提とした、生食可能なもの
- 安全に生食ができるように養殖生産した、サケ・マス類のこと
つまり、日本では加熱調理することを前提に漁獲した天然ものを「サケ」、生食を前提に養殖されたものを「サーモン」と区別しているということです。なお、天然のサケは北半球の一部海域、河川でしか漁獲が見込めません。まとまった量のサケを毎年漁獲している国は少なく、10万t以上の漁獲高があるのは2016年時点で日本とロシア、そしてアメリカの3か国のみとなっています。
サケとサーモンはどんな食べ方をされている?
サケとサーモンは、それぞれ以下のようなシーン・調理法で親しまれる食材です。
- 一般的なサケの使われ方の例
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- 塩漬けにしたものを焼いて食べる、塩鮭
- 身を酢で締めて、酢飯と一緒に押し固めた押し寿司やマス寿司
- 身をいったん冷凍し、解凍してから生で食べるアイヌ民族の伝統料理ルイベ
- その他ソテー、フライ、ムニエルなど
- 一般的なサーモンの使われ方の例
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- 生のまま薄切りにして、刺身や寿司ネタ、マリネ、カルパッチョとして
- その他ソテーやフライ、ムニエルなど
天然もののサケや、チリなどで加熱調理を前提に養殖されるギンザケなどの身は、やはり焼き物、揚げ物などに使われるのが一般的です。対して、ノルウェーなどで生食を前提に養殖されるアトランティックサーモン、サーモントラウトは焼き物、揚げ物はもちろん、刺身や寿司までさまざまな調理法で楽しめます。
味におけるサケとサーモンの違い
自然のなかで育ったサケと、人間が管理する環境・エサで育ったサーモンには、味においても以下のような違いが見られます。
- サケの味わいの特徴
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- 全体的に身が筋肉質でしっかりしている
- 味が濃く感じられ、脂質はさらっとしている
- サーモンの味わいの特徴
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- 脂の乗りが良く、脂質のうま味とコクを楽しめる
- 脂質が多いため、天然もののサケに比べ身がしっとりと柔らかい
仮に同じ方法で調理をしても、サケとサーモンではまた違った味わいを楽しめます。
養殖サーモンはアニサキスに当たる心配が少ない?
オキアミなどを食べて育つ天然もののサケには、アニサキスという寄生虫が寄生している恐れがあります。
- アニサキスとは
- クジラなど、海洋哺乳類の体内で成虫になる寄生虫の一種。幼生のときはオキアミなどに寄生し、その後はオキアミを食べたサケやサバ、カツオなどの魚に寄生して成長する(魚に寄生しているのはアニサキスの幼虫。内臓から筋肉の方へと徐々に移動する)
人間が誤ってアニサキスが寄生した魚の身を食べてしまうと、胃酸に驚いたアニサキスが胃壁に噛みつき、攻撃することでアニサキス症を発症するケースがあります。日本においてサケの生食が避けられてきたのは、おそらく寄生虫による感染症、食中毒を恐れてのことでしょう。
人工飼料を与えられて育つ養殖サーモンには、アニサキスが寄生している可能性がほとんどありません。もちろん、絶対に寄生虫がいないと断言することはできませんが、人工飼料に生きたままのアニサキスが混入している確率は限りなくゼロに近いです。
だからこそ、養殖サーモンが市場に流通するようになったここ20~30年の間に、日本でもサーモンを生で食べる習慣が定着したと考えられます。
養殖サーモンと天然サケの種類
世界で漁獲または生産されているサケ、サーモンの種類の上位トップ3は、それぞれ以下の通りです。
- 世界で漁獲高の多いサケの種類トップ3
- 第1位:カラフトマス
- 第2位:シロザケ(アキザケ)
- 第3位:ベニザケ
- 世界で養殖生産量の多いサーモンの種類トップ3
- 第1位:アトランティックサーモン
- 第2位:トラウトサーモン
- 第3位:ギンザケ
国内でも養殖が人気!ご当地サーモンの産地はどこ?
平成7年、日本人の加熱用塩鮭の購入量を生食用のサーモンが初めて上回りました。その後、全体のサケ購入量は世帯人数の減少に伴って減り続けているものの、平成30年になるまで生食用サーモンの購入量は塩鮭の購入量を上回り続けています。
また各機関、企業が行ったサーモンに関する調査では、以下結果が報告されています。
- 総務省による家計調査
- 生鮮魚介類別の1人当たりの購入量、サケ類が第1位
- 株式会社マルハニチロの調査
- 回転寿司に関する法飛車実態調査で、よく食べているネタの第1位が7年連続でサーモン
- 株式会社オレンジページの調査
- サーモンが好きかどうかのアンケートで、20~30代の多くが「大好き」と回答
- 子どもが好きな生食の魚介類のアンケートでも、サーモンが第1位を獲得
- 購入するサーモンのタイプ、人気トップ3は切り身、さく、刺身用に切ってあるもの
子どもや若者をはじめ、幅広い世代からサーモン人気が高まっていることを受けて、近年では日本国内でもサーモンを養殖する事業者が増加しています。以下のように各地でご当地サーモンが誕生し、養殖サーモンをブランド化する動きも活発化しています。いろいろなタイプのブランドサーモンを購入できますので、興味のある人はインターネット通販で取り寄せてみてください。
- 日本で生産されているご当地サーモンの例
- 青森県|海峡サーモン
- 宮城県|みやぎサーモン
- 新潟県|佐渡サーモン
- 山梨県|甲斐サーモンレッド
- 長野県|信州サーモン
- 富山県|べっ嬪さくらますうらら
- 福井県|ふくいサーモン
- 鳥取県|境港サーモン
- 広島県|広島サーモン
おわりに:加熱を前提とした天然ものが「サケ」、生食可能な養殖ものが「サーモン」と覚えよう
日本では古来より、海や川で獲った天然もののサケを加熱、または酢で締めて食べる文化が育まれてきました。刺身や寿司などに使われて来なかったのは、寄生虫による感染症リスクを恐れたためと考えられます。しかし近年、アニサキス感染症のリスクが低く安心して生食できる養殖サーモンが広く流通し、人気を集めています。サケとサーモン、両者の違いを正しく理解したうえで、これからもおいしくいただきましょう。
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